デート場所はデパートの遊園地

その女性は、僕の会社の隣にある会社に勤めていました。隣同士ということもあり、電車の駅から会社までの十数分の道のりを、たいてい同じ時刻に前後するように歩いていました。
まだ一度も言葉を交わしたことはありませんが、彼女も僕が隣の会社に勤めていることは当然わかっているはずです。たまに顔があうこともありますが、そんなときにはどちらからともなく軽く会釈するようになっていました。割と大柄で、しかし均整のとれた体つきで、胸はおおきく、腰もまた豊に張りだしていて、後ろを歩いているときなど、彼女の腰をふりながら歩く姿はセクシーで、会社に着くまで間、ずっとそれにばかり目をむけていました。
その彼女と、偶然言葉を交わす機会が訪れました。
お昼になって、僕が外食をすませていつものように、最寄りのカフェにはいったときのことでした。カウンターに座ってカップを傾けている彼女の姿が目に飛び込んてきたのです。
僕は、しめたと胸で呟きながら、さりげない様子で彼女の隣に腰を下ろしました。
「あ、これは、これは。毎朝、お顔をあわせている方と隣同士になるとは」
僕がわざとらしくオーバーに言うと、彼女は笑って、
「はじめまして。いつかお話をしたいと思っていましたわ」
嬉しいことをいってくれました。
その店は30分ほどいたでしょうか。その間に、デートの約束を交わしていた僕は、すっかり満足して店を出たのでした。ただ、そのデートの場所が、こちらが決めていた場所ではなく、彼女のほうから某デパートの屋上遊園地ともちだされたとき僕は、また妙なところで会うのだなと思いましたが、案外彼女の趣味かなと思いなおして快く承知していました。
さて当日、時間きっかりに約束場所の、デパートの屋上にやってきた僕は、いろんな遊具に取り巻かれながら、彼女の到着をまちました。
「おまたせ」
彼女の声が背後からして、僕はふりかえりました。
すると、三人のちいさな子供を従えた彼女がそこにたっていました。
「きょうは一日、私の子供たちの相手をしてくださいな」
僕はもう笑うほかありませんでした。

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